2019 タイプフェイスカレンダーの発売を記念してはじまった連載「好きな文字」。第3回はグラフィックデザイナーとはまた異なるフィールドで活躍する勝目祐一郎です。デザイナーたちの目からみた文字の世界を、ぜひ身の回りにある文字に注目しながらお楽しみください。


 

こんにちは、こんばんは。クリエイティブテクノロジストの勝目です。
先日、とある地方都市の市街地を歩いていたら、こんな看板が目に止まりました。

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「さいとう金物店」と並んだ立体文字のうち、「と」の文字が剥がれかけているのか、斜めになってしまっています。

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よく見ると、もともと「と」があったと思われる場所の右上、ちょうど2画目の書き出しにあたる位置に金具のようなものが見えます。おそらく、「と」を2箇所で固定していたうちの右上のこの金具が外れてしまった一方で、左上では辛うじてまだ固定が保たれている結果、このような状態になっているのでしょう。

そして、このように左上の1箇所から吊り下げられ宙ぶらりんになっている「と」の文字が、他ならぬこの角度で静止しているということは、吊り下げ点から地面に下ろした垂線上に文字の重心があるということであり、垂線をはさんで左側と右側の質量が等しいということでもあります。「と」の隠れた一面が明らかになってきました。

金具が外れてしまったことをきっかけとして、「と」の文字が本来の機能を辛うじて保ちながらも、同時に物質としての自身の特性を語り出しているのが面白く、思わず立ち止まってしまいました。

また別の日、沖縄のとある離島を歩いていたら、こんな看板を見つけました。

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左の、お店の名前を構成する立体文字の一部が剥がれ落ちてしまっていますが、注目したいのは右の青い「National」で、本来のナショナルのロゴとはかなりかけ離れた、丸みを帯びた可愛らしい書体で描かれています。

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青文字の周囲に、部分的にサビのようなものがついています。おそらくこれは、先の例でも見た立体文字の取付金具の跡ではないでしょうか。
つまり、以前はここに「National」の立体文字が取り付けられていたのです。それらが全て剥落してしまったので、代わりに立体文字の下地にあたる部分を文字として書き起こし、そのまま看板として活かしている―という流れなのではないでしょうか。

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描かれている「National」の「i」の点と棒がつながっていたり、「a」の左下の丸い抜き部分がいかにも本来の書体とはかけ離れた形で、上から白で描き足されたように見えるのも(これが可愛らしさを感じさせる重要な要素になってはいますが)、立体文字ではこれらの要素が一体として作られていたため、下地部分においては再現する必要がなかったから、と考えると自然に思えます。

沖縄の離島で出会った独特な「National」の文字は、土地の雰囲気とも相まって不思議なおおらかさを醸し出していました。

すべての形あるものは、それが作られた瞬間から少しずつ形を変えていきます。
看板の立体文字であれば、固定された箇所はゆるみ、外れていきますし、塗料は色あせ、剥げていきます。ものによっては人の手が入り、大幅に見た目を変えることもあるでしょう。

時を経るごとに積み重なっていくそうした変化の経緯を、残された痕跡を観察することで読み解くことが面白いのだと思います。


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