——D-BROS MAGAZINEの第1回目は率直に今の宮田さんの興味を知りたいです。仕事人間の宮田さんが、「一番の興味関心って何ですか?」って訊かれた時にポワンって出るものが何かなと。

「それは今現在やっている仕事が上手く回ることだよ」

——単発のクライアント仕事ですね。

「そうそう。あのブランドは今年肝だなとか、あっちはそろそろ最後の詰めが大変だなとか。だからベタに言えば、今やってる仕事が一番の関心事。一生懸命やってるから大丈夫だけど、あとちょっとで答えを出さなきゃいけないという仕事が同時進行でいくつもあるじゃない」

——そうですね。案件数が多いから常に何かがゴールを迎えるタイミングというのが来るわけですもんね。

「その都度小さい〆切がね。あと関心事というか、止まってる仕事のイライラ。イライラの方が多いよ」

——本当ですか。ワクワクの方が多かったりするんじゃないですか。

「動き出したらワクワクだけど、当然動く前っていうのは心配ですよね」

——あんまりそんな風に見えてないですね(笑)。もう描いた通りに進んでるように見えてるんですけど。

「そうはいかないよ。仕事はみんな難しいから」

——私は宮田さんの近くで仕事をさせてもらってるのでよくわかるんですけど、予習と復習がすごいですよね。近くにいないとわからないと思うんですけど。準備は期間をかけてるし、振り返りは鮮度がある時にきちっと固めて次に向かってまた準備期間を長くとるみたいなサイクル。

「まあ、人前ではやってないからな。準備するというのは勇気が持てることだから。よく言うんだけど、街でコワい人とぶつかった時に『馬鹿野郎、何だお前こっちこい』って言われた時にどうする? 逃げるにも足遅いし、パンチも弱いし、口も上手くない。何もできないわけじゃないですか。だからそういう時にどうするのかって言う」

——それは常に準備されてるんですか?

「それはもう土下座しかないよ。あはははは! すぐ土下座。『すみません!!』って大きな声で。そうしたら『おお、しょうがねえな』ってなると思う。でも『何か?』とか言った瞬間に『まず謝れこの野郎』って言われちゃう。この例のために準備をするつもりはないから謝るしかない。でも仕事の経験はしておかないととんでもないことに繋がってしまう。そういう準備と同じことじゃないですか」

——今の準備という話で言うと、準備されてないままアクシデントが起きると、人は学習して次は間髪を入れずにできちゃったりするじゃないですか。それも一つの準備というか、経験したからこその心構えがありますよね。宮田さんは日々いろんなことが起きうるであろうことを相当考えてるんですか。

「考えてないよ。考えてないけど、今日やることは準備しておけば、今日は問題起きないでしょ」

——そうですね。

「だから準備だけはちゃんとすればいい。準備さえしておけば過去の経験と自分の知識とでその場を免れる。でも逃げることもなく、殴ることもなく、土下座することもなく、たった一言、『お前気をつけろ!』『すみませんでした!!』それで済んじゃう。準備があればね。それが、仕事によっては逆に時間を使った方がいい場合はじっくりやるし、方法はそれぞれなんだけど。

社長って先にある目的のために毎日をどうしていくかを考えていく人じゃない。それを考えない社長もいるけど、まず社員たちが幸せにずっと給料をもらえるためにどうしたらいいかを考えるし、株主がちゃんとついてくるかを考えてるし、その時に欠けてることがあると思ったらそこを解決しないといけないじゃない。」

——全体をより俯瞰して見てるっていうことですよね。

「僕の仕事上、そういう社長さんたちに会うことも準備のひとつ。そこでいろんな話を聞くし、話す」

——コミュニケーションをとって先に情報を得る。情報が少ないから答えが導きだせないっていう状況もありますからね。

「そう」

——宮田さんは若い頃から準備は勇気って思ってましたか。

「言葉は思いつきじゃ出てこないし、ビジュアルは自分でいっぱい描かないと出てこない。パンと出てくるものもあるけど、そういう時は相当いいものか、大失敗するかだよね。でも準備ができてない人が多すぎる!

例えば、原風景っていうのはどんなものか持ってきてよと言う。それで『君の持ってきたこれは何で原風景なのか』って訊くとみんな言えない。『気分』っていう答えもある。じゃあ、その気分って何なのよ? 君の気分でカメラマンは写真撮れないぞ。共通語がなかったらカメラマンにどうやってしゃべったらいいんだよってなる。原風景って何なのかとちゃんと整理してくれないと。

なぜ僕ら日本人は田舎に行った時にワッと思うのか。原風景って個人個人で違うけど、共通語にならなきゃいけないでしょう。そこにはいい写真がどうっていうことじゃなくて、いい写真はいい写真で別にあるんですよ。原風景っていい写真なわけじゃない。

俺からすると、日本人がある田舎で生活をする時に必ず家の後ろに小さい山を背負う。いわゆる裏山っていうやつ。家の前には畑や田んぼがあって、その近くに川がある。そういう日本の風景は大体南側を向いてるから、その風景がいいなと思うのは順光に近い。逆光から見た写真はかっこいいとか、奇麗とか別の世界なんだよ。順光で撮るとその風景を自分で感じることができる。それは日本人の生活そのものだから」

——自分がそこに立ってみている風景。

「そう、何か懐かしいと思う。そうやって画じゃなくて言葉でもいいから、でもできれば自分の頭の中で想像して準備をしておけば原風景がどんなものが見えてくるはずなんだよ。音がなくて、匂いもなくて、何かわからないけど温かい」

——匂いの感じとかって、記憶の中みたいな感じなんですかね。だから匂いとかは出てこない。

「うん。昔、ロスに行った時に空は真っ青でかわいい家ばかりで、星条旗がたなびいてて何ともいえずいいなと思ったことがあるの。もうその時には頭の中で写真をパシャッと撮ってるわけじゃない。それが記憶になってる。だけど二度と見たことがないんだよね。何回行っても全然ないの。どんだけバイアスかかってるかわからない(笑)。

『もっと太陽が燦々で壁真っ白なはずだったんだけど随分汚ねえな。空も真っ青なんてないじゃん』って(笑)。だけど40年前と天気がそんなに変わるはずもないから」

——あははは! バイアスかかってくるんですよね。

「どんどん、どんどんバイアスかかってきて、しまいには違う風景として記憶に足し算されちゃってるんだよ」

——だからみんなが共通して思うものは、みんなが共通してバイアスをかけたものなんですよね。

「そう。だからなかなか出会えない。あはは。今は原風景を例えで出したけど、俺がそういう準備をして行くとみんなは考えてこないから、こっちが言った通りになっちゃう。危険だよね。なかなか戦えないんですよ。昔はカメラマンと僕らデザイナーが打合せをする時は喧嘩して大変だったのに。カメラマンはブックを20冊くらい持ってくるわけよ。

どさっと置いて、転がりながら『こうやって撮るんだよ!』ってすごいプレゼンなのよ。デザイナーもデザイナーでこんな感じで!ってやるわけ。ほとんど喧嘩でどっちが勝つかっていう。それがどんなに偉い先生でもお互いに真剣に伝わるまでやる。でも今はなかなかそんな関係にはならない」

——何でやらないんですか?

「そういう習慣がなくなっちゃった。カメラマンは最近バック持ってるし」

——どういうことですか?

「俺と同じようなバックでスケジュールノートを入れてくる。昔のカメラマンはいつも首からカメラをぶら下げていた。要するに僕はクリエイターだけど、作家やアーティストじゃない。ドラフトのデザイナーたちもアーティストじゃないわけですよ。クリエイターなんですよ。だけど、カメラマンとかスタイリストとかイラストレーターとかはアーティストなんですよ。彼らがちょっと何かを変えてくれただけでバカッと表現は変わる。だから彼らのことはアーティストとして呼んでる。でも、徹底してプロとしてやってくれないと大変なことになる。我々は長い間準備を重ねてきたんだから」

——アーティストとして期待以上のものを出してくれたらそれでいいけど、そうじゃないならもっとしっかり準備してほしいっていうことですよね。

「2、3日でパーッと描いて持ってきて『こいつすごい』と思うやつは裏でしっかりやってると思いますよ」

——うん、実はやってる。

「その人なりにしっかりやってる。日々の動きとか、町を歩いている時も意識しながらとか、何事もその積み重ねだよ。そのために準備しておかないと戦えないよね」

(Interviewer:早崎暁生)

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宮田識(みやたさとる)
1948年千葉県生まれ。株式会社ドラフト代表。クリエイティブディレクター。1966年日本デザインセンター入社。69年日本宣伝美術会奨励賞受賞。70年退社後、78年宮田識デザイン事務所設立。89年にドラフトに社名変更。 95年D-BROSをスタートさせプロダクトデザインの開発・販売を開始。朝日広告賞、ADC最高賞、日本宣伝賞山名賞。著書『デザインするな』(藤崎圭一郎 著/DNPアートコミュニケーションズ)

早崎暁生(はやざきあきお)
1972年岐阜県生まれ。株式会社ドラフト取締役。2014年2月よりD-BROSプロジェクト担当。